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~第一部②~ 鶴葉下さんの涙を知れ!

작가: 倉橋
last update 최신 업데이트: 2025-07-27 08:02:34

 東京都玉山市当麻町《とうきょうとたまやましとうまちょう》の当麻駅の近く。

 鶴葉下照光《つるはげてるみつ》さんという三十歳くらいのひとり暮らしの男性がいたのです。おとな

しく無口な性格でした。いつも下を向いていたと、当時を知る人は語っています。

 この人は「鴨下電機《かもしたでんき》」という電化製品の部品工場で働いていたわけですが、誰も彼

のことを本名で呼ぼうとはしませんでした。

「オイ!ライトマン」

「男性用かつらの顧客」

「光る頭をオレに見せるな!」

などと同僚たちがひどい悪口を浴びせていたのです。

 鶴葉下さんは、なんと言われても黙って下を向いたまま、黙々と仕事を続けていました。

 すると同僚たちは怒りだして、

「このライトマン! 髪の毛がないばかりか耳も悪いのか!」

「お前は人間じゃねえ。さっさと自殺せんか!」

 そうもっとひどい悪口を浴びせるのでした。

 鶴葉下さんは、髪の毛が薄く、耳の回りと後頭部に少しばかり残っているだけでした。

 だからといって鶴葉下さんには、なんの落ち度もありません。

 それなのに卑劣な会社の人たちは、鶴葉下氏へのいやがらせを止めようとはしませんでした。

 やがて町中の人々が、面白がって鶴葉下さんをいじめるようになったのです。

 工場へ行く途中。帰り道。

 子どもも大人も、鶴葉下さんを見つけると一斉に駈け寄って来て、

「こら! ライトマン! なにをしている? また悪いことをたくらんでるな」

「髪の毛のない悪党め! 昨日、坂本さんの家に空き巣が入ったが、あれはお前のしわざだろう。白状せんか!」

「髪の毛の薄い分際で、よくも道を歩いたな!わしらをバカにしとるのか! 許さんぞ」

「お前なんか、この世からいなくなればいいんだ」

 なんというひどい話でしょう。

 町の人たち、みんなでおとなしい鶴葉下さんをバカにしていじめたのです。

「ああ。なんてことだ。どうしてわたしは、こんなひどい目に遇わなければならないんだ」

 鶴葉下さんは、ひとり暮らしのアパートの部屋で、一晩中泣くのでした。

 アパートの部屋の窓ガラスは、町の人から石やジュースの空ビン、自転車や掃除機を投げつけられ、一

枚も残っていませんでした。

 新聞紙を貼りつけ、窓ガラスの代わりにしていたのです。

 そんなとき、鶴葉下さんは、叔母さんからかなりの遺産を相続することになりました。

 その遺産というのが、町はずれの高蔵寺にある塔でした。

 その頃は灰色でした。

 塔の回りは大きな空地でした。

 元々、叔母さんの従弟の別荘でしたが設計を失敗、フラフラ左右に揺れて危なかったため空家になった

のです。

 鶴葉下さんは、たくさんの食料を買い込み塔に運びました。

 仕事もやめてこの塔に閉じこもったのです。そうすれば、二度と誰からも悪口を言われずに済むので

す。

 鶴葉下さんは作家をめざしていました。塔の二十階、最上階の部屋で、ゆっくり『鶴葉下照光の生活と

意見』という大作を執筆するつもりでした。

 この小説で芥川賞授賞を夢見ていたのです。

 ところが町の人たちは、静かに小説を執筆したい鶴葉下さんのささやかな願いすら踏みにじったのです。

 朝から晩まで町の人たちが入れ替わり立ち替わり塔の真下に集まりました。

 夜更けまで人がいなくなることはありませんでした。

 少なくて十数名。多いときは百名以上の人々が塔の真下に集まり大声を上げたのです。

「髪の毛のない鶴葉下照光! 出てこい!」

「鶴葉下照光 !俺たちから逃げられると思ったら大間違いだ!」

「ピッカリビー!おとなしく出てこい!」

「わしは警視総監だ!出てこなければ、窃盗罪で死刑じゃ!」

「俺は関西人だ!気が短いぞ!

「昨日、関西人は人を殺しても無罪と国会で決まったぞ!殺されたくなかったら出てこんか!アホ!ボ

ケ!カス!」

朝昼晩。鶴葉下さんに向け、悪口が投げかけられたのです。

 そのうちに音響装置まで設置され、鶴葉下さんへの悪口は空いっぱいに広がったのです。

 しかも大きな文字で黒々と、

「ライトマン死ね!」

と書かれた大きな白い布が塔の真下に広げられました。

 その布の回りで、町の人たちがマイク片手に、鶴葉下さんの悪口を叫び続けたのです。

 でも物事には全てカタストロフがつきものというものです。

 カタストロフは五十年前の六月の第三土曜日でした。

 塔の前の空地にマイクロバスが停車しました。

 当麻中学校の吹奏楽部の生徒達でした。

 総勢五十名あまり。

 吹奏楽部の生徒たちは用意された折り畳み椅子に座って楽器を準備しました。

 合唱部は五列に整列しました。

 吹奏楽部の顧問の指揮の下、ムソグルスキーの「ハゲ山の一夜」の演奏が始まりました。

 用意されたスピーカーに乗って演奏は当麻駅の方まで響き渡りました。

 もちろん塔に閉じこもった鶴葉下さんにも……。

 次のマイクロバスが停車しました。

 当麻高校の民謡研究会のメンバーでした。

 総勢七十名あまり。

 浴衣を着て両手に団扇。縦三列にズラリと並びます。

 吹奏楽部の演奏で北海道の民謡「アドラン節」が流れました。

 民謡研究会の生徒達は、団扇を左右に動かして舞いを踊ります。

 踊りながら、アドラン節に合わせて澄んだ歌声を聞かせるのでした。

♩ハーゲンツルリン ツルリンピカリンツルリンツルリン

♬ハイハイ 

♪カツラできたかアートに問えば 

♫わたしゃ植毛 アドランスに聞け

♬ハゲツル エーーーーーーーーーーーンヤーのピッカピカ

 用意されたスピーカーに乗って歌声は当麻駅の方まで響き渡りました。

 もちろん塔に閉じこもった鶴葉下さんにも……。

 なんという人権を踏みにじったひどい人たちでしょう。

 鶴葉下さんの辛い思いを考えると、わたしも涙を禁じ得ません。

 果せるかな。

 夕日が赤く空を染める頃……

 塔の最上階の部屋。鶴葉下さんは泣きながら大黒天の木像に向かって手を合わせていたのです。

 大黒天!

 七福神のひとりですね。

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